特集!越谷の技人たち(2)

 

ひな人形と「日光街道・越ケ谷宿」の歴史と今

日光街道・越ヶ谷宿の歴史は徳川家康の道路整備事業に端を発する。日本橋から地方へ向けて整備された街道は、五街道と呼ばれ、東海道、日光街道、奥州街道、中山道、甲州街道がある。その中の1つ、日光街道は、日本橋を出発し、家康の墓がある東照大権現へ、歴代将軍や諸大名が訪れるために整備された。江戸時代後期、会田佐右衛門は、人形作りが盛んだった十軒店(日本橋)で学び、越谷へ帰郷。その後、人形作りの技は、越谷に根付き一大生産地に成長。「関東三大ひな市」として名を馳せる。日光街道により江戸への流通の便に恵まれた越谷。日光街道が整備され、人が移動しやすくなったことで江戸から最先端の流行を取り入れつつ、工芸文化を花開かせた。越谷の伝統工芸は、雛人形の他に、甲冑やだるま、桐箱も有名である。越谷「技」博では、伝統工芸技術を代々継承している技人を「匠」と称する。今年は、五名の「匠」が学人を受け入れる。ぜひ、伝統の職人「技」を体験してみてほしい。

伝統と今のバランスを見極める雛デザイナー

人形のあいはる 
會田哲史

三代目の曾田哲史代表がもっともこだわるのは、色彩豊かな着物地だ。工房に溢れる華やかな生地の多くは、会春人形店特注の完全オリジナル作品。雛人形に使われる生地は、模様の大きさが人の着る着物より小さく精密にデザインされている。溢れる生地の中から一日がかりで、十二単の一枚一枚を選ぶ体験ができるのは、〝学人〟にだけ許される特別な贅沢。男雛・女雛の着物地選びに始まる講座は、1〜3回のコースがあり、2組限定。学人が希望すれば、人形の胴部分に思いを託した「手紙」を収めることができる。また、匠と一緒に、着物を着付け、お顔をつける。もちろん、手芸初心者も心配ない。匠と話好きで気さくなおかみさんが丁寧に、最高の仕上がりまでしっかりサポートしてくれる。曾田代表は、「雛人形は、もともと『身代わり』。大切な人の厄を払い、健康で幸せに暮らして欲しいという思いが形になっている」と話す。単に出来合いのものを「買う」ことでは、得ることができない特別な思い出と仕上がり。大切な人へ、自分の思いを「姿」に作り上げて、届ける事ができる。


伝統の技から世界に羽ばたくザイナー

栗原木工所 
栗原章人

栗原木工所は、創業120年。越谷ひな人形組合・栗原照雄組合長が営む。照雄代表は、栗原木工所の4代目。創業以来、栗原木工所は、こども向け玩具を制作してきた。その技術の高さは、皇太子殿下の遊具に選ばれるほど。そして、その確かな木工技術を基に、雛人形を飾り付ける台座部分の制作技術に着手。さらに、生粋の職人家系で育った息子の栗原章人は、自社が作る木工品への塗装の質をもっと向上させたいという強い思いから、伝統の漆塗り技術を習得。その後、鋭い感性とこだわりで、「かつてない鏡面塗装」という新たな漆塗りの「技」を生み出した。

 章人は、「一般的な鏡面塗装と、うちの鏡面塗装は、全く違う」と言い切る。その言葉通り、鏡面塗装を施された作品は、周りの景色が一切の歪みなく完璧な形に映り込む。世界から一流のバイヤーが、最高の技術を求め、章人のもとを訪れる。普段の仕事は、一点ものの最高級家具や小物の受注生産。そのため、一般の人が章人の作品を、章人の作品として見ることができる機会は、ほとんどない。

講座では、普段一般の人が絶対に入ることができない栗原木工所内を見学することができる。工場の中で、黙々と作業に取り組む職人の姿に、もの作りの最前線を感じることができるだろう。また、展示室では、独特の輝きを放つ「かつてない鏡面塗装」の作品を、じっくり鑑賞。章人自らの匠ガイドでは、ツヤと鏡面塗装の違いや、もの作りへの思いを聞くことができる。最後には、お土産として、「かつてない鏡面塗装」を施した特製〝箸〟に、〝学人〟が思い思いに金粉を置き、オリジナル箸を作成することができる。

 ぜひ、伝統の力を礎に、新たな境地を切り開いた匠の溢れる心意気を、作品から、言葉から、作業風景から、しっかり感じ取ってほしい。


技博の期間は11月7日(土)〜12月13日(日)
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越谷技博公式サイト

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